第7章 日曜日
「ほら、順番だ。待たせたな」
通りすがりに桂の頭にポンとヤンジャンを載せ、河合の顔を覗き込む。
「付き合えよ。いちご牛乳おごってやっから」
病院の屋上では、洗濯物がパタパタパタパタ賑やかにはためいていた。
「で?どうするか決めたのか、お前」
河合にイチゴ牛乳を放り、自分も同じイチゴ牛乳にストローを刺してズルズル言わせながら、全蔵は柵に寄り掛かった。
「かたじけない。頂かせて貰います」
イチゴ牛乳を器用に片手で受け取った河合は、涼やかな目元に読めない笑みを含ませてじっと全蔵を見詰めた。
「綾雁さんは難しいところもありますが、心根の真っ直ぐな優しい女性です。身分の違いは承知ですが、私には可愛くて仕方のない大切な女人。ご存念頂きたい」
「おっと。何だ、牽制されてんのか、俺は?」
ヒュッと口を鳴らして口角を上げた全蔵に、河合は穏やかな笑みを向けた。
「錦百合が彼女の気持ちであるならば、私はあなたと出張らねばなりません。私はあの人に答えなければ」
「勝負しようってか?」
「錦百合の花言葉はそればかりではないでしょう?全く人の悪い方だ」
「・・・俺ァ花言葉なんざ知らねえよ」
全蔵はバリバリと頭を掻いて、柵から身を起こした。
「じゃ、明日お前も来るんだな。わかってるだろうが、そりゃ俺と一緒に立ち読みするって事だぞ?」
「委細承知ですよ。手前も男児の端くれ、ジャンプの立ち読みにも覚えがあります」
「別にスピリッツでもいいんだけどよ」
「そこは局長に任せますよ。しかし全蔵殿、綾雁さんの言うことにも理がない訳ではない。これは綾雁さんの為になるのでしょうか」
「結果的にゃな。てか、駄目だろ、お前の可愛いヒゲ子は人に迷惑かけてまで、それこそ手前の首をしめるバカやらかしてんだからよ?理があろうがなかろうが、駄々はこねるモンじゃねえ。誰か叱ってやらんと」
全蔵は呑み終わったイチゴ牛乳のパックをぎゅっと握り潰して、これも河合に放ってやった。
「悪ィけどソレ、捨てといてくれ。今日のとこはゆっくり休んどけ。あんまチーム211にかかずりあうんじゃねえぞ?朱に交わっちまうと紅くなるのはあっという間だからなあ」
「生半でない男ばかり集まりましたね。好ましい。よい思い出になりました」
「何だ、京に行く気か?身を引く話はどうなった?」