第7章 日曜日
「・・・苦情は来ねえのか、この病室。院内で明らかに浮きまくってんぞ?」
銀時と桂の間に見舞い客用の椅子を据えて、ヤンジャンをペラペラめくっていた全蔵がたまりかねて誰ともなく呟いた。
「人手不足が深刻なのか、トド松ガールの彼女以外誰も顔を出さん」
桂が全蔵をじっと見ながら答えた。
「・・・・ヤンジャンか。今週のゴールデンカムイはどうだ。面白いだろう?」
「面白いよ」
「・・・・そのヤンジャンだが。焦げて破れているな?読みづらいんじゃないのか?何なら捨てておいてやるぞ?」
「いや、今読んでるから」
「遠慮はいらん。杉元もアシリパさんも、そんな焦げ焦げの状態で読まれたくはないだろう。俺が捨てておいてやる。さあ」
「・・・・読み終わったら回すから黙って待ってろよ」
「そんなつもりで言った訳ではないのだが、回してくれると言うのなら回して貰わぬでもない」
「・・・・・」
「・・・・決して毎週立ち読みしてるとか続きが気になるとかではないからな。誤解しないで貰いたい」
「・・・・ちょっと黙っててくんねえか?」
「うん?ああ、いいところなんだな?どうだ?どうなって・・・あ、いや、嘘だ。言うな!聞きたくない!止めてくれ!」
ガバと両耳をふさいだ桂に目もくれず、全蔵は黙々とヤンジャンの頁を繰った。
焦げた端がその都度パリパリ乾いた音を立てて、病室のリノリウム床に散っていく。
「つくづく暇人だね、ハットリくんは。何だかんだで毎日見舞いに来ちゃってんじゃねえか」
欠伸混じりに伸びをして頭の後ろで手を組んだ銀時が、呆れたような目を向けてくる。
「金がねえからな。やる事もねえ」
ヤンジャンから顔を上げた全蔵の目に、牛乳パックに植え直された錦百合が映る。河合のベットサイドに置かれたそれは、むさ苦しい病室を細やかに潤していた。
「だったら働けっつの。こんなとこ来てても仕事は降ってこないよ?フリーター忍者の肩書きまでなくしたら、アンタただの下手物食いの変態ニートになっちまうぞ」
「まあな。・・・・アレは?トド松ガールが拾って来たのか?」
錦百合に顎をしゃくって尋ねると、銀時は肩をすくめて河合にチラと目を走らせた。
「アイツだよ」
「そうか。だろうな」
パンとヤンジャンを閉じて立ち上がり、全蔵は河合のベットサイドに移った。