第5章 金曜日
「・・・勝負ねえ・・・」
全蔵は錦百合を眺めて首を傾げた。
「ふぅん・・・お前がそう思うんなら、それでもまあ構わんよ」
「・・・・え?」
「ハイハイ、ちょっとちょっと、退いて頂戴。ホラホラ、邪魔よ邪魔邪魔」
ラララララッとストレッチャーを押して、スピリッツ誘拐犯の記憶も生々しい看護婦長おかん風味が現れた。
「どいてどいて!あー、忙しい忙しい!パンツ替えてる暇もないわ!!ドイツもこいつも火星人も、何だって発情期の蛙みたいにバンバン車にぶつかっちゃってんの!?バカばっかりで大儲けだわ!!笑いが止まんねえby院長だっつの!!あッ!ちょっと何その鉢植えェェ!!!!居座ろうたってそうはいかないよぉぉぉお!!!!!」
通りすがりに錦百合を華麗な足裁きで窓の表へ蹴りだした看護婦長に河合が片手を物言いたげに上げる。
「・・・・え?あの・・・」
「シャラップ!これ以上看護婦長殿を煩わせるんじゃない!健気に職務を努める女人に気も配れぬような輩は今すぐ男の証を切り取る手術を受けるがいい!」
ストレッチャーから頭をもたげて高らかに告げた男を、看護婦長が容赦なく殴り付ける。
「そんな暇ないわあァァァァ!!!!何回入院すりゃ気がすむんだ、アンタらは!!!!オメエも大人しく寝てろヅラァァァア!!!」
「ヅラじゃない。桂だ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・え?攘夷派の?」
「・・・あー・・・・、じゃ、俺、帰るな。いよいよここもいっぱいになって来たし」
「・・・・・遠慮すんなよ、ハットリくん。八人部屋だからもうあと1ベット空いてるぜ?なあおい・・・・・」
「いやもう帰るから」
「そうだよ!!!その空きベットは今夜のアタシの仮眠用だよ!?誰も寝かせないよ!?」
「バッ、待て、御庭番衆!今夜は泊まってけ!尻を休めてきやがれ、な!」
「ふむ・・・婦女子と一晩の共寝にそうも怖じ気づくとは、さては貴様チェリーボーイだな、マヨ方・・・」
「マヨ方って誰えェェ!?流石にないわ。バカかテメエは!?ちょ、マジ何でコイツと同室!?ざけんなよ、おいィィ!!!」
「桂、よくもノコノコと・・・それはともかくスピリッツ返して下さい、看護婦さん」
「止めて近藤。何か悲しくなって来たからもう止めて」