第5章 金曜日
「流石お公家さんとこのお姫さんだ。気前いいねえ。良かったな、万事屋、グラさん。こらァ全員分の入院費に治療費を払っても釣りが来る」
綾雁が残した袱紗の重みを確かめながら、全蔵は苦笑いした。
「ソレ、ヒゲ子の金じゃねえだろ。要らねぇよ」
うつ伏せた長谷川の背中にのし掛かって頬杖した銀時が、面白くもなさそうな顔を明後日の方向へ向けた。
「書店のバイトがそんなに儲かる訳ねえもんなあ・・・」
銀時の下敷きになった長谷川が、うつ伏せたままくぐもった声でポツリと言う。
「客に怪我させてばっかのバカバイトに誰がそんな金出すか。世の中そんなに甘かねえ。家の金だろうよ」
先刻着け損ねた煙草に火を入れて、土方はコキコキと首を鳴らした。
「参った。全ッ然帰る気なさそうじゃないか。頼みの綱の河合まで吹っ飛ばすし、とんだじゃじゃ馬姫だな、オイ」
鼻にディッシュを詰めながら近藤が苦笑する。
「・・・・俺を下ろしてくれりゃあ、今からでもおっついて調教してやりやすぜ?足ィふん縛ってイエス!総悟様ッて抜かしやがるまでド攻めに攻めてやるァ、あのクソブタ」
「オメエは当分そこで休んでろ」
「家出騒ぎを政治問題に大出世させる気か、お前は」
天井裏からボソボソと降ってきた沖田の言葉に、土方と近藤が揃って首を振った。
「人が悪いな。気ィ失ったフリして盗み聞きかよ。下衆だねえ」
ポンポンと袱紗を手で弄いながら全蔵は片口を上げた。チラリと河合に目を走らせ、手遊びを止める。
「・・・・お前はどうするんだ?河合」
「・・・・少し考えさせて下さい・・・」
ベットに突っ伏したまま、河合が静かに答えた。
「俺は月曜にゃ動くぜ?それまでに答えを出しとくんだな」
「もうあの店には行かれないのではなかったのですか?」
意外そうに顔を上げた河合の熱視線に全蔵はシッシと手を振って答えた。
「客しに行くんじゃねえよ。立ち読みにしに行くんだ」