第5章 金曜日
「皆々様、思い煩っておりましたよりお元気そうで何よりです・・・・」
柔らかいアルトの声がガサついやり取りに滑り込んできた。
ぴたっと病室が静かになって、綾雁に視線が集中する。
何本もの視線の中、河合の柔らかい目にだけ答えながら綾雁は深々と頭を下げた。
「この度は皆様方に大変なご迷惑をおかけ致しました。平にお許しくださいませ。つむりに血が昇りますと、何をしでかすかわからない性分でございまして、堪えを覚えねばならぬと心掛けてはおりますものの、弁えが足りぬのでございましょうか、何時になっても治まりがつきません」
「・・・・何?要するにカッとすると黄金の左が止まらないって話?」
銀時の問いに綾雁は恥ずかしそうに頷いた。
「左様にございます」
「はにかんだって駄目だよ。君ね、この部屋の怪我人、そこの熱視線繰り出して来る縛り屋以外みんなメイドインヒゲ子だからね?今日はヒゲないけど騙されないよ?ヒゲ子だよね?赤パン履いてたよね・・・・あ」
「下穿きの話などはしたのうございますウゥゥゥ!!!!!!」
「ゥぐはッ」
「わッちょッ・・・ガフッ」
美しい軌跡を描いて、綾雁の左が銀時の脇を直撃した。吹っ飛ばされた銀時が長谷川にクリティカルヒットする。
ストンと足を下ろした綾雁は、ふっと息を吐いて目を瞑り、また目を開けて周りを見回し、ハッと手で口を覆った。
「・・・おい、お姫さんよ。アンタの導火線短か過ぎやしねェか?」
「火気厳禁ンンンンッ!!!!!」
呆れ顔で煙草をくわえて火を着けかけた土方が、踵落としを食らってベットに沈した。
「ちょ、ちょ、落ち着いて下さいよ、綾雁さん。アンタ一体何しに来・・・・」
「スピリッツゴォリラアァァァ!!!!!」
鼻っ柱に左を食らった近藤が鼻血を吹いて枕に頭をバウンドさせる。
「このオスブタがあァァァ!!!!!」
「俺ァまだ何も言っちゃねえぞ、あ?メスブタ?」
続いて襲ってきた蹴りを上体を巧みに反らして避けながら、沖田がにやりと笑った。
「バカの一つ覚えじゃねェかよ?左レフト左レフト、詰まんねえなあ、おい、一本眉子?」
「あ、沖田。この人の利き脚は右・・・・」
ドゴゥッ
目にも止まらぬ早さで空を切った綾雁の右足が沖田の顎を捕らえ、沖田は勢い良く飛び上がって天井に刺さった。