第4章 木曜日
「あんだけカッコつけといて知らぬ存ぜぬはありませんや。人に劇薬代まで持たせたんだ、相応に働いて貰いやすぜ、旦那」
特に申し合わせたわけでもないのに揃ってヒゲ子の書店へ向かいながら、沖田がにこにこと言う。
全蔵は尻を庇うような前傾姿勢でソロソロ歩きつつ、しょっぱい顔をした。
「働いて貰うってこの状態の俺が役に立つように見えんのか?悪意一色な上に節穴か、お前の目は。大体あの劇薬ァ元々お前の奢りだろうが。・・・河合はどうした?」
「あいつァチーム211入りしやしたぜ」
「・・・食ったのか?」
「食いやしたねえ・・・」
「バカか」
「バカなんでさ、あいつァ」
「・・・・知ってるよ」
口元を上げて全蔵は足を止めた。
立ち読みお断り。
この張り紙は日替わりらしい。濡れ濡れした墨の色に、全蔵は苦笑いした。
「真面目なお姫さんなんだな」
「河合が惚れるくれェですからねえ。そうなんでしょうよ」
頑丈そうな縄にガッチガチに捕縄されたヤンジャンを手にとって、沖田が全蔵に手を突き出す。
「・・・・何ソレ」
「買って来まさぁ。金ェ下せえよ」
「ちょっと待て。何で俺が金を出さなきゃならねえんだ?俺ァヤンジャンなんか興味ねえぞ」
「俺だってありやせんや。こいつァチーム211へ見舞いでさ」
「・・・・アイツらヤンジャンなんか読むのか?」
「河合が読みますぜ?」
「・・・・釈然としねえな・・・」
結果的に自分が病院送りにしてしまった河合の名を出されて、全蔵は渋々懐から財布を出した。
「気前いいですねィ、尻の旦那」
「・・・まだ言うかよ、テメエは」
「これで東京喰種:reが読めまさぁ。買うほどじゃねえが読み逃すのは業腹でねえ」
「・・・・おいコラ、ちょっと待て。河合が読むんじゃねえのか」
「アイツが人から貰った見舞いをスルーするわきゃねえでしょ。六法全書貰ったって退院する頃にゃ司法試験をパスしかねねぇくらい読みやすぜ、河合なら」
「まるきり釈然としねえな」
「じゃ、会計ついでにヒゲ子の面ァ拝んで来ますから、旦那はここで尻の世話でも見てて下せえよ」
「・・・いちいちムカつくヤツだな、お前」
「僻んじゃいけねえ。色男ってなムカつかれがちなモンでしてね。慣れてまさァ」
「顔の話なんかしてねえ。明らかに性格に問題あるって話だ」