第39章 月島蛍は審神者である。3
「やまぐち、体を清める場所はあるか?」
「あっちにシャワー室が」
「借りる」
はあ、と答えてその背を見送る。
布は又ひるがえりまるで雨露に映える狐の嫁入りの様な美しい髪を晒していた。
綺麗だ一一と、山口は思う。
あれだけの貌を持った青年だ。
月島が隠したくなるのも無理はない。
山口は知っている。
月島は本当に大切な物は大事に大事に仕舞い込むタイプだ、と一一。
一一課せられたメニューをこなし時間が来たから、とまだ残りたがる一年二人を残し部員達が引き上げる。
月島はふと、夢中になり山姥切をベンチに残してきた事を思い出し見遣る。
一一が、目的の青年はいない。
「山口、山姥切は?」
月島が問うと山口は不思議そうに首を傾げた。
「さっき体洗いたいからって…」
「で?」
月島の目が細まる。
山口は不意に察した。
自分は今悪い方向に月島の琴線に触れている。
「旧館の方なら部外者でも目立たないかなって…」
でも、あちらはもうブレーカーが落とされ湯は出ない筈だ。
「そ。悪いけど、抜けるから荷物出しといて」
「あ、うん」
静かに、ただ山口に向けてではないが確かに月島の言葉は怒りを含んでいた。
月島はナンの事はないという風に体育館を出て行くが、本当は怒っているのだ。
それが何に対してなのか、なんて考えるのは山口には難儀でしかなかった。