第1章 烏野高校バレー部、始まる
(あっ…!呼び方間違えた!)
気付いた時にはもう遅い。
顔が火照ってきてるのが自分でも分かる。
高校生にもなってこの呼び方は恥ずかしいと自覚はしていた。
そのため高校から出来た友人の前では翔ちゃんを「日向」と
呼ぶよう気を付けていたのだが…。
幼馴染の間柄で、何年も前から使っている呼び名なのだから
とっさに出てしまうのはどうにもならない。
(っとにかく!翔ちゃんのこと悪く言ったのは訂正してもらわないと!)
「月島君の背が高いだけで、ひっ、日向は別にチビじゃないっ」
顔を真っ赤にしながらも、尚も反論した美月。
そんな美月に月島は、
「プッ」
「…え?」
真面目な美月とは対照的に、口元に手をやりながら笑いを堪えていた。
「いやさ…。恥ずかしいって思いながら
もう1回否定してくるとは思わなくて…っふ」
そう言いながら月島は笑いに肩を震わせる。
(な、なにがそんなにツボなんだろ…?)
美月の顔は更に温度を上げていく。
「よっぽどその幼馴染が大事なんだね」
「ばっ、馬鹿にしてる?!幼馴染が大事なのは当たり前だよ!」
くすくすと笑い、美月を見下ろす月島。
そんな月島に山口もおどおどしてしまっている。
ようやく笑いの波が落ち着いたのか、ふぅっと息を吐くと
月島は美月を見据えながら淡々と言葉を連ねた。
「その幼馴染と今度の土曜、3対3でゲームするよ」
「え?」
「たかが部活なのに…そのために朝も昼も夜も練習してるみたいだね。
熱血なやつは忙しいよね」
馬鹿にしたように笑う月島の声は、
彼女の耳には届いていなかった。
「翔ちゃん…試合するの?」
「…え」
またあの呼び名を使ってしまっていることにも気付かず、
美月は食い入るように月島の瞳を見つめた。
美月の持つ空気が先ほどとは打って変わって、緊張感あるものになる。
そんな美月からの真っ直ぐな視線に、
月島は一瞬気圧された。