第2章 手をつないで歩くことから
午前中のみの部活が終わった日曜日。
一度家に帰ってエナメルバッグより小さなショルダーバッグに持ち替えた。
練習で汗だくになった体をシャワーで洗い流して、私服に袖を通し待ち合わせに向かう。
午後は待ちに待ったなまえと出かける日である。
デートというやつだ。
二人で出かけるのが初めてな訳ではないが、恋人としてデートをするのはこれが初めてだった。
時間を確認すると約束の時間が迫っている。
このままでは遅刻だ。
走ってなまえの待つ場所へと急いだ。
「悪い、待たせた」
結局着いた頃にはシャワーを浴びた意味もなく汗が流れて、待ち合わせには5分遅れた。
申し訳なくて、荒い息を整える前になまえに謝罪した。
「そんなに急がなくてもよかったのに」
苦笑して水を手渡してくれた彼女にまた申し訳なくなった。
それと同時に優しい気遣いに心が温かくなる。
一気に貰った水を飲み干して息を整えると、ありがとうと礼を言った。
「さ、行こうか。待たせた分付き合うよ」
「ありがとう。でもそんなに待ってないよ?」
数歩進んでピタッと足を止めた。
いけない、忘れる所だった。
隣を見るといきなり立ち止まった俺を不思議そうに覗き込んでくるなまえに手を差し出した。
「手、繋がない?俺は繋ぎたいんだけど、なまえは?」
ぱちぱちと数回瞬いてそっと繋がれたなまえの手は、小さくて、柔らかくて、温かかった。
「うん、私も繋ぎたい」
嬉しそうに笑うなまえの頬がほんのり桃色に染まっている。
可愛らしくてきゅっと少し力を込めた。
今日はこの手が離れないように。
デートも無事終わり家に着くと、真っ先になまえにメールを送って、それからもう一通メールを打った。
黒子に礼を言おうと思っての事だ。
帰ってきた黒子からのメールに笑みが零れる。
本当に、いい仲間を持ったものだ。
『上手くいったみたいでよかったです。カントクだけじゃありません。僕も皆も応援してますから』
手をつないで歩くことから始めよう。
手から伝わる君の温もりに安心するから。