第2章 手をつないで歩くことから
「じゃあ聞くけど、次って例えば?」
「んー、そうねぇ。キスでもしちゃえば?」
「はぁ?!」
参考までに聞こうと思った俺が馬鹿だった。
いきなりすぎるだろう。
ハードルが高い。無理だ。
というか、そんなに簡単に出来るものでもなければ、しちゃえ☆なんて軽い気持ちでしたいものでもない。
何が女子の気持ちが分かる、だ。
参考にならないではないか。
見ろ、日向も呆れてる。
「あの、」
突然第三の声が割って入ってきた。
カントクと二人で声の主を見ると、存在感は薄いがコートの中だと頼れる後輩がいた。
一体いつからいたんだ。
声を上げはしなかったが肩を跳ねさせた。
いつもいつも驚かせてくれる後輩だ。
「黒子、いたのか」
「もぉ、ビックリさせないでよぉ。心臓に悪い」
「すみません、驚かせるつもりはないんですが」
話を折って入ってくるくらいだ、何か用があるのだろう。
どうしたと続きを促せば、彼は時計に目をやった。
カントクと一緒に俺も時計に目を向ける。
「休憩時間過ぎてますけど」
「おわっ、いけない!皆、再開するわよーっ!」
思ったより時間が経っていたらしい。
時間が過ぎるのは早いなとぼんやり思った。
この話はまた今度だなと思いながらコートへと歩き出した時、再び後輩に呼ばれたので振り返った。
「伊月先輩」
「どうした?」
「少し突飛でしたけど、カントクなりに応援したいんだと思います」
脈絡のない用件だったが、すぐに何の事か分かった。
黒子は先刻の会話を聞いていたらしい。
ただでさえ声が響きやすい体育館だ、聞くつもりがなくとも聞こえたのだろう。
フォローまでいれてくれて、いい後輩だ。
応援してくれているのは俺も分かっている、有り難く嬉しい事である。
「あぁ、分かってる。ありがとな」
「あの、それで僕から提案なんですが、手を繋ぐ事から始めてみたらどうでしょう」
コート上で頼れる後輩は、恋愛においても頼りになるようだ。
それくらいなら俺にも出来そうだし、近付くにもいいかもしれない。
有り難いアドバイスをくれた黒子の肩に手を置いて礼を言った。
近くなまえと出かける約束をしている。
丁度いい機会だ、早速試してみようと思った。
なまえに会うのが尚更楽しみになって、その日の練習に力が入った。