第15章 〈南九〉あなたと共に
「……南戸」
「はい、若」
「ここ……」
「はい、女の子の服屋さんです」
「……」
2人が来たのは今、若い女の子の間で流行っている洋服屋さんだった。
「……南戸」
「はい」
「……何で僕をここに連れて来たんだ? ……お前の好きな女の子を連れて来ればよかったじゃないのか?」
久兵衛は少し寂しそうな顔をして俯いた。ーーどことなく、心の中でモヤモヤした感情があるからだ。
「それは俺が若に服を買いたいからですよ」
「……へ?」
久兵衛はびっくりした様子で南戸を見た。
「若って可愛いのに、いっつも男もんの服ばっか着てますよね? しかも、着物」
「……」
「まあ、着物の若も可愛いんですけど……1回だけ洋服を着た若を見てみたいなと思いまして……」
南戸は隣にいる久兵衛の様子を伺いながら言葉を続けた。
「……若が嫌なら別の店に……」
「いや」
久兵衛は目の前の店を見ながら言った。ーー雰囲気は警戒心剥き出しなのだが……。
「ぼ、僕も1回は“すかあと”というものを履いてみたかったから……だ、大丈夫だ」
「……」
南戸はふっと笑った。
「そうですか。じゃあ、俺が若の服を選ぶんで試着してもらってもいいですか?」
「あ、ああ」