第15章 〈南九〉あなたと共に
「何ですか? 若様から声をかけてくれるなんて、珍しいじゃないですか。何かありましたか?」
「……」
九兵衛は南戸を睨んでいる。
「おい、南戸」
「はい」
殺意にも似たその目を目の前の男に向けて、九兵衛は聞いた。
「……お前……妙ちゃんを狙ってるのか?」
「……は?」
南戸は驚いた顔をして、すっとぼけた声を出した。
「とぼけるな! おばばから聞いたんだ! お前が面白いものを見つけたって言ってたことを! 妙ちゃんのことだろ!」
九兵衛はキッと睨んで、腰に携えてある刀を握った。
「どうなんだ? 返答によっては、お前を斬ることにもなりかねんぞ」
「ちょ、ちょちょちょ、若!? 何で俺がお妙さんのことを好きにならなきゃならんのですか!?」
「え?」
九兵衛は刀から手を離した。
「違うのか?」
「違いますよ。それに、俺がお妙さんのことを好きなら真っ先にキャバクラに行ってますよ。その方が手っ取り早いでしょ?」
「……」
ーー確かにそうだ。女好きの南戸が好きな人が働いている店に行かないなんてことはまずもってありえない。
「……」
「わかってもらえましたか?」
「……ああ」
九兵衛は南戸に対する殺気を消した。
「悪かった」