第15章 〈南九〉あなたと共に
九兵衛はお風呂に入っていた。
「若様、湯加減はいかがですか?」
外からおばばの声が聞こえる。
「ちょうどいい。これくらいの熱さにしてくれ」
「わかりました」
ーー柳生家のお風呂は未だに旧式の五右衛門風呂だったので、湯加減を調節しなければいけないシステムだった。
(そう言えば……)
ー今日は珍しく、南戸が来ていたな……。いつもなら、女の子と一緒にホテルに行ってるはずなのだが……何かあったのだろうか?
「……」
「若様、何か考え事ですか?」
「あ、いや……おばば……」
「はい、何ですか?」
おばばは優しく聞いてくれる。ーーお妙に対してはとても厳しい態度をとる、このおばばも九兵衛に対しては優しいのだ。
「……南戸は……今日はいつ帰って来たんだ?」
「え……」
外から驚いた声が聞こえた。
九兵衛はため息をついた。
ー無理もない。急にこんなことを聞いたのだから。
「南戸なら……昨日の夜に帰って来ましたよ」
「え?」
九兵衛は驚いた。
(あの南戸が?)
ーーいつもなら、夜はフラフラして女の子と一緒にいるような奴だ。そんな奴がなぜ……。
「この間の一件があってから、すっかり女遊びをやめたようですよ。もっと面白いものを見つけた、とかなんとか……」