第8章 〈沖田〉今日こそは……
(おかしい……)
ーーさっきから、何か違和感を感じる。想像以上に大きい遊園地。楽しいアトラクション。美味しい売店の数々。誰もいない道。そう、誰もいない……。
「……」
(まさか貸し切りとかじゃ……ないよね……)
そんなお金が20代半ばの男にあるはずがない。確かに、総悟は公務員だが……数年働いた程度じゃ無理だ。
「……総悟、あの……」
「あー、もうそろそろ時間だな」
総悟は私の言葉を遮り、ある方向へと向かった。
「総悟?」
「お前、夜景が見たいとかなんとか言ってただろ?」
閑散としている道を歩きながら、総悟は振り向くこともなくそう言った。
「え? うん……」
(覚えてて……くれた……?)
総悟は立ち止まり、やっと私の方を振り向いた。
「乗るか」
「……!」
顔の表情も顔色も何一つ変えずに彼は言った。
「乗らねェのかィ?」
「の、乗る!」
ギュッと総悟と繋いだ手を握って、私は笑顔で言った。
「ん」
私と総悟はそのまま観覧車へ向かい、男のスタッフさんにパスを見せた。
「ありがとうございます。それでは、楽しんで行ってらっしゃい」
ーーどこかで聞いたことがある声。気のせいだろうか?
総悟は気にもせず、前へと進む。