【おそ松さん】シアターデート type:O(R18)
第1章 1
公開から結構経ってるせいか、席に座ってる人はまばらだった。人を避けて真ん中より少し後ろの方に座る。「楽しみだね!」ってほんとに心の底からワクワクしてる感じでがこっちを向いて言って、おれもポップコーンを鷲づかんで口に放り込みながら「そーだなー」って返した。うーん、やっぱバター味よりしょうゆ味にすればよかったかもな。迷ったんだよなー。ミスったな。は膝の上に抱えたハンドバッグをぎゅっと握りしめて、この映画のあらすじとか、ネットでの評判とか、どんな賞取ったとか、俳優女優の他の出演してる作品とか、いろいろ一生懸命解説してくれる。わざわざ調べてきてくれたのかな?話に出てくる人名も作品名も全然きいたことないのばっかでよくわかんないから適当に相槌打ってるうちに、ブザーがなって照明がゆっくり落とされた。
「あ、始まるね」って言っては黙ったけど、マナーを注意するムービーとか他の映画の予告とかで本編まではまだまだだ。でもおれたちの間に置いてるポップコーンはすでに半分くらい減っている。ほぼほぼおれが食べたんだけど。どうでもいい予告なのに食い入るように真面目に見ているの肩をこづいて、ポップコーンのカップを「ん」って差し出したら、「あ、ありがとう」って小声で言って慌てて一粒だけつまむのが面白い。膝の上のハンドバッグが重そうだったから「荷物、下に置いたら?」って耳元に顔を寄せて囁いたら、は「う、うん、そうだね」って慌てて下に置いた。ひそひそ喋る声が不快だったのか、前の前の席に座ってるカップルの男がすこし振り向いてこっちを見る。まだ始まってねーしちょっとくらいいいだろ、うるせーなあ。
映画が始まった。思ってたより話が複雑でシリアスな感じで、確かにアクションとかカーチェイスは派手だけどなかなかにつまらない。しかも字幕。吹き替えじゃねーのかよ!字幕を追ってるうちに大事なシーンを見逃したりして、どんどん話が分かんなくなって、おれは開始30分くらいで飽きてしまった。眠気が襲ってくる。そう感じてたのはおれだけじゃないようで、さっきこっちを睨んできたカップルの男も彼女の肩に寄りかかってすっかり寝こけていた。彼女が時々重そうに肩を揺すってるのがシルエットでわかる。あーあ、かわいそうに。