第8章 神様の悪戯
今日は、29歳の誕生日。
黒川さんはもう42歳か、本当にオジサンになっちゃったな…なんて思うと、少し笑ってしまった。
私はこの10年、黒川さんだけを想い続けてきた。
何人かの男性にアプローチされたが、全て断った。
黒川さん以上に魅力的な男性はいなかった。
仕事を終えてアパートに帰ると、私の部屋の前に黒いスーツを着た男性が立っていた。
その人は、玄関前に花束を置いていた。
「黒川さん…!?」
思わず声をかけると、振り向いたその人は黒川さんでは無かった。
50代前半くらいの、髪をオールバックにした男性。
「どちら様ですか…?」
「見付かっちゃったか、黒川に怒られるな…。」
男性は悲しげに笑った。
「初めまして。東堂(トウドウ)です。」
「東堂、さん…どうして貴方が花束を…?」
「黒川に、頼まれたんでね。」
「どういうことですか?」
「あまり外で話せる話じゃないんだ。」
その言葉で、この人も黒川さんと同じような職業の人なんだと察した。
私は東堂さんを部屋に入れ、話を聞くことにした。