第8章 神様の悪戯
「黒川の職業は知ってるよね?」
「はい…。」
「黒川が殺し屋なら、私は情報屋といったところかな。」
東堂さんの話が本当なら、恐らくこの人がひなこの周辺や私の過去を調べ、黒川さんに情報を提供した人物なのだろう。
そんな過去の話、今は関係無いが。
「まぁ、黒川と私は仕事上のパートナーだったんだよ。」
過去形なのが気になった。
「あの…黒川さん元気ですか?」
そう聞くと、東堂さんは目を伏せた。
「黒川は…5年前に死んだ。」
「…え?」
頭の中が真っ白になった。
東堂さんは私に同情の目を向けた。
「仕事中に逆に殺られてしまったんだ。あいつは死ぬ直前、私に電話をかけてきた。そしてこう言った。"毎年12月24日に、シュリの家の玄関前に青い薔薇の花束を届けてくれ。"と…それが黒川の最期の言葉だったよ。」
「え、ちょっと待って下さい…じゃあ5年前からはずっと東堂さんが届けてくれてたんですか?」
「そうだよ。」
「黒川さんは…5年も前に死んじゃってたってことですか…?」
「…ああ。」
ずっと、ずっと…青い薔薇の花束が届く限り、黒川さんと繋がっていると思っていたのに。
不思議と涙は出なくて、むしろ笑えてきた。
「…なんだ、黒川さん…もういなかったんだ。」
見えない糸はとっくに切れていたんだ。