第8章 神様の悪戯
私に黒川さんを探す手段は無く、1年が経った。
社会人になった私は今日、20歳の誕生日を迎えた。
今日はひなこがお祝いをしてくれた。
黒川さんのことは誰にも話していないが、彼のことを忘れた日は1日も無かった。
アパートに帰ると、私の部屋の前に何か置いてあった。
それは、青い薔薇の花束だった。
私が青い薔薇の花束が好きだと知っている人物は一人しかいない。
「黒川さん…?」
私は花束を抱えて泣いた。
自分から離れたくせに、こんな時だけ狡い。
それでも嬉しくて嬉しくて、まだ黒川さんの中に私はいるんだと思うとそれだけで幸せだった。
それから毎年、誕生日に青い薔薇の花束が玄関前に置かれるようになった。
花束を置きに来る時に会えるのではないかと思って玄関前で待ってみた時もあったが、黒川さんは忍者の様に私に見付からないように花束を届け続けた。
毎年毎年、1年も欠かすことなく。
この青い薔薇の花束だけが、私と黒川さんを繋ぐ物だった。
この花が届く限り、何処か知らない場所にいる黒川さんと繋がっている気がして…私は毎年、花束を楽しみにしていた。
そして更に、9年の月日が流れた―――