第8章 神様の悪戯
翌朝、起きると隣で寝ていたはずの黒川さんがいなくなっていた。
また仕事かな…そう思ってベッドから出た。
黒川さんの職業について色々思うところはあるが、それは後々聞けばいい。
黒川さんが何かと秘密主義だった理由も、血塗れのシャツで帰って来た理由も、今なら分かる。
今日、黒川さんが帰って来たら一つ我が儘を言ってみようと思う。
"黒川さん"ではなく、"隼人さん"と呼びたいと…。
リビングに行くと、テーブルの上に大きなボストンバッグとメモ書きが残されていた。
メモ用紙にはこう書かれていた。
"お前から全てを奪った俺に、お前と生きていく資格はない。当面はこれで暮らせ。幸せになれよ。"
「何、これ…。」
突然突き付けられた、別れ。
ボストンバッグを開けると、大量の1万円札の束が入っていた。
私は黒川さんに電話をかけた。
しかし、何度かけても黒川さんが電話に出ることはなかった。
私はメモ用紙を握りしめて泣き崩れた。
やっと…やっと黒川さんの気持ちが知れたのに。
想いが通じたのに。
「…愛してるって言ったじゃん…っ。」
どんな結果になろうと、黒川さんは私と生きていくつもりは無かったんだ―――