第6章 "その人"の名前
「一緒に遊ばない?」
「この後どこ行くのー?」
明らかに遊び慣れてそうな二人組だ。
私はひなこの手を取り、二人を無視してゲームセンターから出ようとした。
「ちょっとー、シカトかよー。」
男の一人がひなこの腕を掴んだ。
「うわ、なにこれリスカの痕?キモッ。」
腕を掴んだ時に袖の隙間から見えたらしく、男はそう言ってひなこの手を振り払った。
俯くひなこ。
腹が立った私は、男を突き飛ばした。
「何も知らないくせに簡単にそういうこと言うな。」
そう言って、ひなこの手を引いて走ってゲームセンターから出た。
ある程度走り、ゲームセンターから少し離れた場所で立ち止まった。
「シュリ…ありがとね。」
ひなこはうっすら目に涙を浮かべていた。
「ひなこ、気にしちゃダメだよ。あんな奴の言葉で傷つく必要ない。」
「そうじゃなくて…シュリが言い返してくれたのが嬉しくて。」
「だってムカついたから…。」
「シュリはさ…ひなこのこと、許してくれたの…?」
「え?」
「ひなこはシュリを裏切ったじゃん。許されなくて当然だと思ってる。それでもレイプされてること話せるのシュリしかいなくて…どこまで都合がいいんだって自分でも思ったよ。なのにシュリはひなこの心配してくれて…だから思ったの。一生許されなくてもいいから、シュリの友達でいたいって。シュリに嫌われたりしない限り、ずっと…。」
初めて聞いた、ひなこの気持ち。
私はもう、あの時のことなんて気にしていなかった。
ひなこを責めるつもりも無いし、許さないとも思っていなかった。
でも、ひなこはずっと後悔してたんだ…。
「ひなこ。確かにひなこには一度裏切られたよ。でも…ひなこは私が初めて心を許せた友達だから。私…昔色々あって人間不信になってたんだけどさ、そんな私が久しぶりに心を許せたのがひなこだったの。だからもう…許すとか許されないとか、そういうの考えるのやめよ?」
ひなこの大きな瞳から涙が溢れた。