第6章 "その人"の名前
「シュリ、なんか元気ないよ?大丈夫?」
ひなこに黒川さんの話はしていない。
だけど私は今の気持ちを誰かに聞いてほしかった。
「ひなこ…私さ、好きな人がいるんだ。」
「そうなの?その人と何かあった…?」
「その人…自分のこと全然話してくれないし、多分…昔の恋人だと思うんだけど、その女の人と私が似てるから私に声かけたらしくて…なんていうか、その…。」
今まで恋愛とは無縁だった私は、相談の仕方もよく分からなかった。
すると、ひなこの小さな手が私の頭に伸びてきた。
「シュリ、ゆっくりでいいよ。上手く話そうとしなくていいんだよ。」
ひなこに頭を撫でられて、私の涙腺は崩壊した。
学校の廊下だというのに、私は人目も気にせずに泣いた。
その間、ひなこはずっと手を握ってくれていた。