第6章 "その人"の名前
翌朝、アラームの音で目を覚ました。
あの後、またいつの間にか眠ってしまったらしい。
ベッドに黒川さんはいなかった。
慌てて寝室から出て、部屋中を探したがどこにもいなかった。
まさか、あの熱で仕事に行ったの…?
一言、声をかけてほしかった。
以前黒川さんが2週間なんの連絡もなく帰って来なかった時も思ったが、こんなに近くにいるのに私達は遠い。
心の距離があるのだ。
私は支度をして学校に行き、昨日黒川さんと一緒にやった英語のレポートを提出した。
心の中は虚しさでいっぱいだった。
「シュリー!」
突然後ろから声をかけられた。
その可愛らしい声で、振り向く前に相手が誰か分かった。
振り向くと、ひなこが笑顔で駆け寄ってきた。
「ひなこ!」
「今日は会えたねー!嬉しい!」
あの三人がいなくなってから、ひなこは元の明るいひなこに戻りつつあった。
手首の傷痕は消えないが…心の傷は少しずつ消えているのだろう。
私はひなこのことを"親友"だと思い始めていた。