第6章 "その人"の名前
いつの間にか眠ってしまった私は、黒川さんの声で目を覚ました。
黒川さんは眠っているが、苦しいのかうなされている。
そっと黒川さんの額に手を添えると、まだ熱かった。
無意識だろうが、黒川さんが額に添えた私の手を握った。
「…カスミ…。」
「え…?」
今、確かに黒川さんは"カスミ"と言った。
誰かの名前だろうか…。
その時私は思った。
カスミさんはもしかして、黒川さんが私に似ていると言ったあの女性のことではないだろうか…。
私の手を、カスミさんの手だと思って握ったの…?
あくまでも私の推測でしかないのに、胸が苦しくなった。
カスミさんならこんな時、黒川さんの名前を呼び返してあげることができたのだろうか。
私はそっと黒川さんの手を戻した。