第6章 "その人"の名前
突然、黒川さんが変な咳をした。
「大丈夫?風邪?」
「大丈夫大丈夫。それよりあと2ページだよ、頑張れ。」
「うん…。」
心配だが、黒川さんも子どもではないし、酷くなりそうだと思ったら病院に行くだろう。
私は残りの2ページを終わらせ、一息ついた。
「終わったー!黒川さん、ありがとう。」
「ん、お疲れ。」
黒川さんは先程から何回も咳をしている。
風邪を拗らせた時の様な変な咳だ。
「ねぇ、本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫。」
「風邪薬買って来ようか?」
「あー…確か蜂谷先生にもらったのがあるからそれ飲むよ。」
思いがけないところで懐かしい名前を聞いた。
「蜂谷先生…ね。」
蜂谷先生にはお世話になった。
少し怪しい医者だったが…。
「ごめん、やっぱり少し寝るわ。」
薬を飲んだ黒川さんは、そう言って寝室に向かった。