第4章 募る不信感と恋心
あっという間に時間は過ぎ、夕方になった。
「そろそろ観覧車乗る?」
黒川さんにそう言われて、私達は観覧車に乗った。
向かい合って座り、ゆっくりと空に近付いていく。
最初は緊張したけど、徐々に慣れてきた私は外の景色を見て言葉を失った。
辺り一面、夕焼けでオレンジ色に染まっていた。
夕陽に照らされてキラキラと光る海。
先程までいた場所が、今は小さな玩具の世界の様に見える。
「綺麗…。」
感動した。
ふと黒川さんを見ると、ずっと遠くを見つめていた。
その眼差しがあまりにも悲しげで、胸が切なくなった。
黒川さんは今、何を考えているのだろう。
声をかけることもできず、私はただ、美しい景色を眺めていた。
「シュリ。」
黒川さんに声をかけられて振り向くと、彼は悲しげに微笑んでいた。
「なに?」
「ずっとさ、うちにいなよ。」
「え…?」
「お前がいなくなったら寂しいよ。」
これは…本心?
黒川さんの本音と嘘。
見分けがつくようになったつもりでいたけど、今は分からなかった。
「それは…私が黒川さんの知り合いの女性に似てるから?」
声が震えた。
「その人、黒川さんにとって大切な人なんでしょ?その人のことよく分からないし、なんで黒川さんの傍にいないのかも分からないけど…その人が帰ってきたら、私はもう…必要なくなるんじゃないの?」
今にも溢れそうな涙を堪えて、ずっと聞きたかったことを聞いた。
黒川さんは自嘲気味に笑った。
「そいつはもう、帰ってこないよ。」
「どうして…?」
「だってもう、この世にいないから。」
一瞬、時が止まった様な感覚に襲われた。
私は何も言えなくて。
段々と、地上が近付いてきて。
観覧車を降りる直前、黒川さんが言った。
「シュリをそいつの代わりとは思ってない。」
その言葉の意味をどう捉えたらいいか分からなかった。