第1章 おくすりのんだら
「(いまのうち!)」
たたた、と駆け出す。少し、足音がしただろうかと、冷やりとしたが、目の前に広がる大通りに、その気がかりも飛んでいった。
「そと!だ~!!」はしゃいで駆け回る。きゃはは、と自然に笑みがこぼれる。
ああ、なんて楽しいのだろう。
「何しよう?何しよう?」
アゴに手をあて、首をかしげながらトテトテと歩く。
すると、キキーっと音がして、車から男の人が声をだした。
「どうしたの?楽しそうだね……」
車の中は薄暗くて、顔はよく見えなかった。
「えとねー、えとね!いまとぉってもたのしいの!」
「そう、それはよかったね……あのさ、まんが、好き?ウチにさ、たくさんあるんだよ…
ひひっ、ゲームもあるよ?お菓子だって、ジュースだって。ねぇ、游びに来てくれないかなぁ…?
おじさんさぁ、游び相手いなくて寂しいんだよね。だから
さ、おじさんと遊んでくれない?」
それはかわいそうだと、少女は少し考えて元気に答えた。
「いいよー!わたしが、おじさんのあそびあいてになったげるー!」
「ひひっ、ありがと…じゃあ、この車に乗って。お家まで、ひとっ飛びだから。」
「わー!すーぱーかーだねー!」
おおはしゃぎして飛び跳ねる。
「あ、あまりおおきな声だしちゃダメ…お、おじさんと君だけの秘密だから…。」
どうやらそれは秘密だったらしく、おじさんは慌てたように左右をチラチラと見ながら言った。
「ひ・み・つー?!わかったーっ!」
少女は小さな声でぴしり、と敬礼する。
「そう、いいコだね…さあ、乗って?」
開いたドアに、少女は素直に乗り込んだ。