第4章 にごったあおはあかまじり【一松】
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「…あれ…?ここは…そうだ、私ッ…!」
朦朧とした思考が、瞬間、ハッとして、少女はガバリと起き上がる。
「起きたぁああ?」
少女は自分がソファーに運ばれた事、
自分に毛布がかかっていることに驚き、戸惑った。
ローテーブルをはさんで向かい側には、
自分を誘拐した張本人が、
不満そうに肘を付き顔を覗き込んでいる。
「その様子だともう思いだしたみたいだけど?」
幼児化しているときは気付かなかった。
いや、気づくはずもなかった。
なぜなら、記憶がさっぱりとなくなっていたのだから。
しかし、今なら分かる。
何故、彼が……と、驚きや動揺を感じずにはいられないのだが、
努めて冷静を装い、少女は気丈に答えた。
「どうして?一松くん……」
「ハ、知らないでしょ。僕がどれだけ君のことが好きだったか。
ずっと、ずっと、好きだった。
クソ松にデレデレと紹介された、あの日から……。
デカパン博士のくすり、まちがえたんだって?
……当たり前でしょ。僕がすり替えたんだから。
本当は、君を猫にするつもりだった。
僕は猫好きで通ってるからね、新入りの一匹や二匹、誰も気づきはしない。
そしたら、ずっと一緒にいられたほずだったんだ。
誰にも邪魔されずに、ね。」
その言葉に、否応なくぞっとする。
「博士に頼んで、作ってもらった猫薬を
研究所に忍び込んで、栄養剤とこっそり入れ替えた。
クソ松が博士に栄養剤を頼んでいたことがわかったから、
ちょうどいいタイミングだったし。
でも誤算だったよ。まさか幼児化するなんて、ね。」
ヒヒッ
「どうして知っているのかって?
もちろんでしょ。トト子ちゃん。君のことなら、なんでも知ってる。
僕が知らないことなんて、なにもないんだから……。」
いや、と小さく声が漏れる。
「まぁでも、クソ松を信用させるのは簡単だったけど。
今までごめん、これからは仲良くしよう、なんて。
ぜーんぶ、嘘なのになぁ!!!」
アハハ、と空笑いが響く。
体の震えは、もう、止まらなかった。
「何度も何度も、事あるごとに遊びに行ったよね。
クソ松に会わないといけないのは辛かった。
でも、君に会うためなら、そんなことどうでもよかったよ。」