第9章 もっと欲しい【トド松、おそ松】
その日の深夜、みんなが寝静まったころ。
わたしは、パジャマの肩のあたりを引っ張られる感覚で、浅い眠りから起こされた。
見ると、枕元にトド松くんが座っていて、熱のこもった瞳でわたしを見つめていた。
「トド松くん……どうしたの」
トド松「さくらちゃん、ちょっと付き合って」
トド松くんは、うるんだ瞳でそんなことを言った。
正直、彼は可愛い。きっと、男の子から見ても可愛いと感じるような、そんな何かをもっている。
だから、そんな目でそんなことを言われて、断れるはずがなかった。
わたしは、促されるままに布団を抜け出し、トド松くんについて寝室を出た。
「どこに行くの?」
トド松「トイレ」
「えっ……ああ、トイレね」
なーんだ。トド松くん、トイレかあ。
そういえば、彼は、夜中に一人でトイレに行くのが怖いとかで、よくチョロ松くんやカラ松くんを起こしている。
それが、今夜はわたしだったらしい。
わたしとトド松くんは、連れ立って一階にあるお手洗いに向かった。
「じゃあ、廊下で待ってるから。ごゆっくりどうぞ」
トド松「えっ、何言ってるの? さくらちゃんも一緒に入るの」
ぐいっ
腕をひかれて、わたしは、お手洗いの中に引き込まれた。
トド松くんは、後ろ手にお手洗いのドアをしめると、ますます熱のこもった色っぽい瞳でわたしを見た。
「あ……」
トド松「最近、なかなか二人きりになれなかったからさ……寂しかった」
トド松くんの腕が、ぎゅっとわたしを抱きしめる。
強い力だったけれど、優しい抱きしめ方だった。
「うん……そうだね。最近、二人きりってなかったね」
トド松「夜中に起こしちゃってごめんね。でも、我慢できなくて」
トド松くんの声は、小さく震えていた。
泣いているんじゃないかと錯覚するほど、彼は弱っていた。
本当に寂しかったんだ……こんなふうになるくらいに。
トド松「さくらちゃん……」
トド松くんからの、触れるような優しいキス。
そんな小鳥のついばみのようなキスを何度も繰り返し、最後にしっとりと唇を重ね合う。
さっきの優しいキスとはうってかわって、深い大人のキスを繰り返す。