第41章 紫色《逆ハーEND》
おそ松くん、チョロ松くん、十四松くんに立て続けにあんなことを言われて、わたしは、動揺していた。
だって、みんな、いつも愛の言葉は口にしても付き合おうだなんて言ったことは一度もなかったから…
「みんな、どうしちゃったんだろう…」
そんなことを考えながら、階段をのぼる。
今は、わたしは一松くんとふたりでお家でお留守番中。
さっきまで、わたしは、一人で台所でデザートのババロアを作っていた。
みんなで夕飯のあとに食べようと思って。
本当は、一松くんにも手伝ってほしかったんだけど、一松くんは猫と戯れるのに忙しそうだったから、邪魔をしないでおいた。
「一松くん〜。お菓子づくり終わったから、わたしもまーぜてー」
そう言いながら、子供部屋のふすまを開ける。
……と、飛び込んできた光景に目を小さく見張る。
一松くんは、猫と戯れていなかった。
では、何をしていたかと言うと、ソファに寝そべってすうすうと寝息をたてていた。
眠る一松くんの傍には、茶色い毛並みの猫が丸くなっていて、彼に寄り添うようにして眠っている。
「一松くん……」
一松くんを起こさないように、そっと近づいていき、その寝顔を覗き込む。
可愛い寝顔……
ふ、と思わず笑みがこぼれる。
手をのばして、一松くんの頬に触れてみる。
あまり外に出ないせいか、他の兄弟よりも少し白くて無機的な肌…
無造作な髪の毛…
浮き出た鎖骨と、喉仏…
一松くんは、きっと、容姿だけならモテるタイプの人だ。
卑屈でネガティブだから、女の子は敬遠しちゃうけど。
「もったいないなあ……」
そんな言葉が、ぽつりと唇からこぼれた。
それと同時に、この人が、とても愛しくなった。
「いちまつくん……ふふ」
そっと一松くんの手をにぎり、身を乗り出す。
そして、その唇に、ちゅ、と触れるだけのキスをした。
その瞬間だった。
ぐいっ、と腕を引かれて、わたしは、一松くんの上に倒れ込んだ。
「えっ……!?」
驚いて顔をあげると、にやにやと悪戯っぽく笑う一松くんと目が合った。