第36章 君がくれる口づけは《カラ松END》
「な、なに……?なんで……?」
ガクガクと足が震える。
寒気が襲ってきて、歯がカチカチと鳴る。
わたしは、耐えきれず、その場に崩れ落ちた。
こんなの、うそだ……
夢だ……
夢に決まってる……
だって、どうして? どうして、みんなが血の海に倒れているの?
そんなの、現実なわけない。
???「…さくら……」
かすれた声がわたしの名前を呼んだ。
我に返ると、すぐ目の前にうつ伏せに倒れていた一松くんが、顔をあげ、わたしに向かって手を伸ばしていた。
「一松くん…ッ」
わたしは、一松くんに駆け寄り、その手を握りしめた。
一松くんの手は、氷のように冷たかった。
「一松くん……どうして……どうしてこんな……」
一松「……さくら、逃げて」
「……えっ?」
一松くんは、反対側の手で、わたしの頬に触れた。
一松「今まで……ごめんね……でも、もう、さくらは自由だから……」
「……一松くん?」
一松「だから……逃げて……」
息も絶え絶えに言う一松くんは、もうわたしの顔も見えていないのだろう。
光のない目で、逃げて、逃げて、とうわ言のように繰り返す。
逃げて? 誰から? 何から?
……あれ? そもそも、わたしは何をしようとしていたんだっけ?
「カラ松……くん……」
頭がその名前を思い出した瞬間。
???「何してるんだ、さくら」
背後で、声がした。
声の主は、わたしの腕をつかみあげると、目線を合わせて、にんまりと口角をつりあげた。
「からまつ…く、ん……ッ」
カラ松「いい子で待ってろって言ったのに。だめじゃないか、ここに来ちゃ」
彼の顔は、返り血で真っ赤だった。
顔だけじゃない。
パーカーも、ズボンも、手も……
そこで、やっと、彼の手に大きなナタが握られていることに気づき、「ひっ」と声をあげた。
「……カラ松くんっ……カラ松くんがやったの…? そのナタで……みんなを……」
わたしがたずねると、カラ松くんは目を細めて笑った。
カラ松「……ああ、そうだよ」