第4章 お風呂場で【おそ松】
松野家のお風呂場をつかうのは初めてだった。
いくら仲が良かったとは言え、さすがに泊まりに来たりしたことはなかったし、シャワーをあびる機会だってそうそうない。
シャワーの蛇口をひねると、熱いお湯が出た。
火傷しそうなくらい熱かったけど、かまわずにそのままシャワーをあびる。
とにかく、なんとしてもここから逃げなきゃ。
最悪、警察に行ったっていい。
今日、おそ松くんに言われた言葉。
『もし逃げたりしたら……さくらの大事なものがなくなることになるけど。それでもいいなら逃げれば?』
おそ松くんが言っていたわたしの大事なものというのが何なのかはわからない。
お母さん?お父さん?ともだち?
でも、そんなのは脅しであって……きっと彼はわたしが逃げたところでそれを実行したりしない。
うん……きっと、そう。
熱いシャワーをあびているうちに、頭が冷静になってきた。
とにかく、服を着て、音をたてないように外に出よう。きっと、まだトド松くん以外は帰って来ていないはず。
逃げるなら今だ。
しかし、わたしの決意は、
???「もしかして、ここから逃げ出そうなんて考えてるんじゃねーよな?」
背後からきこえた声によって、打ち砕かれた。
声の主を振り向くと、そこに立っていたのは、赤いパーカーの男の子。
あわてて、わたしは自分の体を手で隠す。
しかし、彼は、服のままお風呂場に入ってくると、わたしの両手首をつかんだ。
「う、い、いや…!!」
おそ松「なーにが嫌なの? 裸ならさっきも見たじゃん」
「触らないで…! はなして!」
わたしは、おそ松くんの手を振り払って逃げだそうとこころみた。
が、手首をがっちりと掴まれていて、逃げられない。
おそ松「……ったく、まだ観念してなかったんだ。オレらから逃げようなんて、バカなこと考えないほうがいいよ?さくらちゃん」
「あ、あなたたちがしてることは犯罪だよ…! これ以上こんなことするなら、け、警察よぶから!」
おそ松「ふーん? 呼べるもんなら呼んでみな?」
「なっ……」
警察という言葉を出しても、おそ松くんは動揺しなかった。
にたりと笑って、後手に風呂場のドアをしめる。