第30章 はんぶんこ《十四松END》
Side 十四松
さくらちゃんは、カラ松兄さんと同じ部活の女の子だった。
クラスが同じだったから、顔と名前は知っていたんだけど、話したことは一度もなくて…
だから、カラ松兄さんがさくらちゃんを家に連れてきたときは、びっくりした。
話してみてわかったことがある。さくらちゃんは、すごくいい子で、可愛くて、やさしくて、良い意味で普通の子だった。
ぼくがさくらちゃんを好きになるまで、時間はかからなかった。
でも、ぼくは知ってる。
さくらちゃんが好きな人は、カラ松兄さんだ。
さくらちゃんは、いつもカラ松兄さんと2人で帰っている。
部活がある日はもちろんそうだけど、部活がないときでも、一緒に帰って、帰りにどこかに寄り道しているみたい。
ぼくだって……さくらちゃんとふたりで出かけたかった。
一緒に帰って、一緒にいろんなところに寄り道して、帰り際にばいばいって手を振り合いたかった。
だから……
十四松「ねえ、さくらちゃん!!」
朝、ぼくは、登校してきたさくらちゃんに抱きついた。
さくらちゃんは、バランスをくずし、教室の床に尻餅をついた。
「ちょっ…十四松くん! 教室ではやめてって言ってるじゃん…もう!」
十四松「あはは〜、ごめんごめん! ついつい!」
さくらちゃんは、優しい。
いくらぼくが人前で抱きついても、最後は笑って許してくれる。
十四松「ねっ、さくらちゃん! 今日もカラ松兄さんと帰るの?」
「えっ……う、うーん、どうかな。今日は部活がないし、特に約束してるわけでもないけど……」
十四松「だったらさ! ぼくと遊びに行こうよ!!」
勇気を出して誘ってみた。
すると、さくらちゃんは、目に見えるほど顔を赤くして、目を見張った。
「えっ……ええっ!? それって、ふたりで?」
十四松「うんっ! そうだよ、ふたりで!」
「い、いいけど……めずらしいね! 十四松くんがふたりで遊びに行こうだなんて」
十四松「たまにはぼくだってさくらちゃんを独り占めしたいよー!」
「そ、そっか…うん、楽しみにしてるね」
そう言って笑ったさくらちゃんは、女の子の顔をしていた。