第29章 泣きたいときは《十四松END》
カラ松「……さくら、この腕の傷、どうしたんだ」
いつものように事を終えて、服を着ようとしたとき、
カラ松くんが、わたしの腕をつかんだ。
たった今、わたしはカラ松くんと居間でエッチをしていた。
今日は、わたしたち以外だれも家にいなかったから…
裸になれば必然的に腕の傷を見られると思ってたけど… 行為の最中には気付かなかったみたいだ。
意外と腕って目がいかないのかな…? そういえば、前に十四松くんに腕を切られたときも、誰も気付かなかったし…
「……ねえ、カラ松くん」
わたしは、カラ松くんの目をじっと見つめた。
……十四松くんのことを相談するのは得策ではない。
でも、わたし自身の悩みを相談するならば、問題ないはずだ。
カラ松「……どうしたんだ?」
「あのさ、大切な人が、もしも自分を傷つけるような行為をしていたら……カラ松くんならどうする?」
わたしがそうたずねると、カラ松くんは、とたんに眉をひそめた。
カラ松「つまり……さくらはアームカットをしているということか?」
「あっ、ちがうちがう! そうじゃないよ。もしもの話ね。これは、猫に引っ掻かれただけ。一松くんの猫が凶暴で……」
カラ松「そうなのか……それならいいんだが……いや、いいってことはないけど」
そして、カラ松くんは、うーん、と首をひねった。
カラ松「そうだな……さっきの答えだけど、俺だったら、とりあえず、その大切な人と同じ場所を同じように傷つけてみるかな」
「えっ……?」
返ってきた答えに、おどろいてカラ松くんの顔を見る。
「な、なにそれ……?」
カラ松「だって、相手の気持ちなんてわからないじゃないか。相手がどんな痛みを背負っているか、どんな苦しみを背負っているか、同じことをすればほんの少し見えてくるような気がするんだ」
カラ松くんは、笑顔だった。すがすがしいほどに。
カラ松「どうしてこんなことをするのか、とか、こんなことやめて、とかは間違っても言わない。だって、こんなこと、って相手の行動を否定する言葉だろ? それは、ますます相手を追いつめるだけだ」
「……っ」
たしかに、カラ松くんの言っていることは筋が通っているし、一理ある。
じゃあ……なに?
十四松くんと同じように手首を切れば、何か解決するの?