第28章 守りたい《十四松END》
みんなが寝静まったころ――
わたしは、何故だか寝付けなくて、布団の中で何度も寝返りをうって体勢を変えながら起きていた。
なんだか暑いし、寝苦しい。
もういっそ起き上がったほうが楽かもしれない、と思ったそのときだった。
ごそごそと布団の反対端のほうから布のこすれるような音がした。
あわてて寝たふりをしていると、今度は、足音がして、更にはふすまを開け閉めする音がした。
どうやら、誰かが部屋を出て行ったらしい。
そっと起き上がって、誰がいないか確認する。
「やっぱり……」
案の定、というべきか。十四松くんの布団が、空になっていた。
わたしは、十四松くんを追って部屋を出て、一階におりた。
お風呂場から、灯りがもれている。
足音を忍ばせながら、そちらに近づいていき、扉の陰からそっと中を覗き込む。
そして、わたしは、そこに広がっていた光景に、息をのんだ。
十四松くんは、右手にあのときと同じカッターナイフを持って、必死に左手の手首を切りつけていた。
その唇からは、「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」という謝罪の言葉が絶えず紡がれている。
「十四松くんっ…!!」
それは、衝動だった。
わたしは、十四松くんに駆け寄り、カッターを持ったほうの右手首を掴み上げた。
「なにしてるの、十四松くんッ!!」
十四松くんの首が、ぐるりとわたしのほうを向く。
わたしを見つめる十四松くんの瞳には、光がなかった。
十四松「さくらちゃん……はは、あはははは、どーしたの、こんな夜中に??」
「どうしたのはこっちの台詞だよ…! どうしてまたこんなことしてるの!?」
十四松「……えへへへ、だって、痛がってたんだもん」
……痛がってた?
だれが……? 十四松くんは、なんの話をしているの?
十四松「さくらちゃんも見てたでしょ〜? 痛がってたし、苦しがってた。ぼくに、助けてって言ってた」
「まさか……十四松くん……さっきの仔犬の……」
十四松「そーだよ! だから、あの子と同じ痛みをぼくも感じたいんだー! そうすれば、あの子も寂しくないでしょ?」
十四松くんは、そう言って、わたしの手を振り払い、2度、3度、と手首を切りつける。