第22章 もっと構って《おそ松END》
あの日……一松くんと図書館でデートした日から、おそ松くんの様子が、なんだか変わった。
それまでベタベタとしつこいくらいにちょっかいをかけられていたのに、あの日を境に、おそ松くんはすっかり大人しくなった。
いや、大人しくなったというのは、ちょっとちがうかもしれない。
どちらかというと、まるでわたしに興味がなくなってしまったかのように、あっさりとした態度をとるようになったのだ。
優しいと言えば、優しいのかもしれない。でも、その優しさは、まるでクラスメイトの女子に接するときのような優しさ。
……おそ松くんは、もうわたしのことが好きじゃなくなってしまったのかも。
それはそれで、良いはずなのに……
なんでだろう、胸にぽっかりと穴があいたかのような気分だった。
「あの……おそ松くん、ちょっといいかな」
その日、わたしは、買い出しの相談をするために、一人で2階にいたおそ松くんに話しかけた。
おそ松くんは、畳の上に寝そべり、競馬新聞とにらめっこしていた。
おそ松「んー? どしたの、さくら」
おそ松くんは、わたしのほうを見もせずに返事をした。
その態度に、ちくっと胸に小さな痛みが走った。
「その……今から買い出しに行くから、何か買ってきてほしいものとか食べたいものとかないかなって」
おそ松「……買い出し?」
「そう。一松くんと……」
わたしがそう答えると、おそ松くんは、ようやく新聞から顔をあげた。
おそ松くんは、何とも言えない無表情だった。
おそ松「…あっそう」
えっ……
おそ松くん、何か怒ってる?
おそ松「別に食いたいものはないけど、煙草買って来てくんない? いつも俺が吸ってる銘柄。12ミリのやつね」
「あ……うん、わかった」
そのとき、背後から、「さくら、準備できた?」と一松くんの声がした。
振り向くと、そこには、いつもの紫色のパーカーではなく、胸元に英字の書かれたTシャツを着た一松くんが立っていた。
「うん、準備できたよ」
一松「…じゃ、行こっか」
おそ松「あーー、まって」
不意に、おそ松くんに腕をつかまれて、どきんと胸が高鳴った。
「…どうしたの、おそ松くん」
おそ松「やっぱ、煙草いいや。てか、今日、俺のぶんの晩飯いらないから。外で食ってくる」