第20章 離れられない《一松END》
わたしが病室にお見舞いに行くと、一松くんは、大抵、ベッドの上でぼーっと窓の外を眺めていた。
「傷……大丈夫? まだ痛い?」
わたしがそうたずねると、一松くんは、窓の外を見つめていた目を、ゆっくりとわたしに向けて、優しく笑った。
一松「うん……全然平気」
「わたしを庇ったばっかりに……ごめんなさい」
一松「もう謝らなくていいって……」
あれから、わたしは、ろくに眠れない日々を過ごしていた。
わたしのせいで一松くんが傷ついてしまったこと。
わたしのせいでカラ松くんがおかしくなってしまったこと。
ぜんぶ……わたしのせいなのに。
なのに、わたしは、一人だけピンピンしている。
一松「さっき……カラ松が見舞いに来たよ」
「えっ……!?」
カラ松くんがお見舞いに…!?
カラ松くんは、あの夜、落ち着かせようとしたチョロ松くんの手を振り払って家を飛び出していき、行方不明になっていた。
「まさか、何かされたわけじゃ……」
一松「ううん、そういうんじゃないよ…。ほんとのほんとに、ただのお見舞いだった…」
そう言って、一松くんは、窓際に飾られたオレンジ色の花を見やった。
一松「あいつのことだから、赤い薔薇の花束とかもってくるんだと思ったら……」
「まあ、お見舞いに薔薇って、ちょっと縁起悪いもんね」
いろいろ知りたいことはあったけれど、
でも、とりあえずは、カラ松くんが元気なら何よりだ。
ふたりの間に、何か溝がうまれてしまったわけでもなさそうだし。
殺し殺されかけたのに……そう思うと、やっぱり兄弟の絆ってすごい。
「カラ松くんは、もう家に戻ってこないのかな…」
一松「さあ……知らない。落ち着いたらふらっと戻ってくるかもね」
「そっか……」
一松「……やっぱり、気になる? カラ松のこと」
はっとして一松くんを見ると、彼の寂しそうな色の瞳がわたしを見つめていた。
気になる?って、どういう意味で訊いたんだろう…
「わたしは……」
一松「…は。ごめん、ちょっと意地悪で訊いただけ」
「え……」
あ、もしかして、また騙された?
「もう…っ、一松くん」
ぷくり。頬を膨らませる。
と、一松くんの手が伸びてきて、わたしの頬を包み込んだ。