第17章 こっち見て【十四松+トド松】
その翌日、目覚めたわたしの隣には、珍しくパーカーにジャージではなくきちんとした私服を着込んだ一松くんが、膝を抱えて座っていた。
「え……い、一松くん?」
一松「あ、やっと起きた」
一松くんは、そう言って、ヒヒ、と笑った。
「どうしたの、こんなところで何してるの?」
一松「さくらが起きるの待ってた」
「なんで?」
一松「今日、ふたりで出かけようと思って」
「えっ?」
出かける?
ふたりで?
それって、つまり。
一松「もう忘れた? 僕ら、彼氏と彼女になったんだよ。デートに出かけたっておかしくないでしょ」
「わたしは付き合うなんて一言も……っ」
一松「だったら、カラ松に本当のこと言わないとね。さくらが僕だけじゃなくて他の兄弟ともヤりまくってる淫乱だって」
「そんな……」
そんなこと、カラ松くんに知られたら、生きていけない。
きっと、カラ松くんは、わたしを軽蔑する。
嫌われるだけじゃ済まないかもしれない。
一松「…わかった? あんたに選択肢はないんだよ」
「……」
一松「わかったら、さっさと着替えて」
わたしは、一松くんに促されるままに、服を着替えて出かける支度をするしかなかった。
それにしても、一松くん、一体どこに出かけるつもりなんだろう。
おそ松くんのときみたいに、ラブホテルに連れて行かれるのかな……
一松くんが、ショッピングとか映画とか、ごく一般的なデートに興味があるとは思えないし。
「ねえ、一松くん。どこに行くつもりなの?」
家を出る前に、玄関で、それとなく訊いてみる。
すると、一松くんは、ふわりと、信じられないほど優しい笑みを口元に浮かべた。
一松「さくらが喜びそうなところ」
「えっ……?」
その笑顔は、高校生のころの一松くんのものによく似ていた。
そう、一松くんは、昔、こんなふうに優しく笑いかけてくれた。
いつも、わたしに優しく接してくれた。
わたしは、そんな一松くんが大好きだった。
「一松くん……」
一松「ん、どうしたの。なんで泣いてんの」
「えっ……あ……」
やば。わたし、なんで泣いてるの。
涙が勝手にあふれてきて止まらない。