第13章 君を好きになった理由
Side おそ松
『2組の梅野さくらって子、知ってる?』
その名前を聞いた瞬間、自然と足がとまった。
放課後の昇降口。
外はすっかり夜に包まれ、もうじき閉門の時間が迫っていた。
もう校舎内には誰も残っていないと思っていたのに。こんなところで噂話をするなんて、ずいぶんと暇な奴らだな。
『知ってるよー。演劇部のカラ松くんといつもべったりしてる子だよね?』
『そうそう!付き合ってもいないのに図々しいよね』
『大して可愛くもないのに。カラ松くんと釣り合うと思ってるのかな?』
昇降口で立ち話をしているのは、おそらく他クラスの女子ふたり。
彼女たちは、絶賛さくらの悪口大会を催しているらしい。俺が聞いていることも知らずに。
さくらが大して可愛くない、というのはひがみだとして、
カラ松が女子にモテるのは否定できない。
あいつは、演劇部で主役をやったりしているから、クラスだけでなく、学校中の女子からとても人気があるのだ。
カラ松のファンの女の子いわく、舞台の上のカラ松は、きらきらしていてすごくかっこいいらしい。……俺には全然わかんないけど。
それはともかく、そのカラ松が、最近、同じ部活の特定の女子と仲が良い。
ともなれば、カラ松を気に入っていた女の子たちは、面白くないに決まっている。
『だから、今度、ちょっとシメてやろうと思って』
『えー、何すんの。こわーい』
『これ以上カラ松くんに近づかないでって言うの。だって、きっと、カラ松くんも迷惑してるもの』
おそ松「なになにー? なんの話? なーんか物騒な言葉がきこえてきたけど」
俺は、二人組の女子の間にわって入って、むりやり話を遮った。
『えっ……あ、お、おそ松くん?』
ふたりの顔から血の気がひいた。
その目が、驚きと焦りに大きく見開かれる。
おそ松「ありゃ。俺のこと知ってんの?」
『そ、それは……知ってるよ。おそ松くんたち、有名だし』
それはそうだ。
一卵性の6つ子なんてそうそういないから、俺たちは、小学校でも中学校でも、そして高校でも、校内に知らない人はいないほどの有名人なのだ。