第2章 Episode1【出会いは突然に】
夢かなにかかと思ったし、何より外灯に照らされたその顔を私は知っていた。
今世間を騒がしている、男性アイドルグループ《TRIGGER》、その中でメインボーカルを務めている人。その人が今、私の目の前にいた。
「ああ、驚かしてごめんね。邪魔をする気はなかったんだけど……って聞いてる?」
ズイっと顔を近付けてくる彼――九条天に私は慌てて相槌を打つ。
すると彼は満足そうに微笑む。
至近距離で見る彼の笑顔は、破壊力抜群で……とても心臓に悪い。
そんなふうに考えているのを知ってか知らずか、九条さんは話を続ける。
「ボクも声を掛ける気はなかったんだけど、こんな時間に雨に打たれながら歌ってる子がいたら不審に思うでしょ? それで近づいてみたらあまりに楽しそうだったから……」
目の前で淡々と語る九条さんは、何ていうかテレビで見る時よりもずっと辛口で、雰囲気の違う様子に驚きを隠せなかった。
黙々と聞いていたせいか、真面目に聞いていないと思われたらしく、九条さんが溜息混じりに呟く。
「はぁ……やっぱり聞いてないでしょ君。そんなにボクが珍しい?」
そう言った彼と目が合った瞬間、顔が熱くなったのが直ぐに分かった。
私の反応で何かに気づいたらしく、九条さんは少しトーンの落ち着いた声音で話す。
「もしかして……ボクのファンだったりした?」
質問に答える代わりに頷くと、九条さんは何かをボソッと呟いてから私の腕を引いた。
「え、あのっ」
「冷たっ……こんなになるまで歌ってるとか、君バカでしょ」
「?!」
バカって言われた……確かに自分でもちょっとは思ったけども。それを九条さんに指摘されると凹んでしまう。
正論に言葉が出ず、俯く私に九条さんはあくまで淡々と話を進める。
「ついてきて、君がボクのファンだって言うなら放置なんて出来ないから」
言うなり返事も待たずに歩き出す九条さん。誰かに見られたら? そう思ったものの言い出す間もなく、九条さんは立ち止まる。
連れてこられた場所は、彼の住むビルだった。