第4章 Episode3【特別な日】
『九条天Said』
お昼すぎに届いたチャットを見て、身が引き締まる思いがした。
彼女が明日見に来る。それだけで気持ちが上向くのが自分でも分かる。
「……明日のライブは、絶対最高のステージにするから」
だから、ボクは寝込んでいる場合じゃない。
彼女と出会ってから一週間。体調管理の甘さが祟って、風邪をひいてしまっていた。
だけど、ボクの都合でライブを楽しみに待っていてくれるファンの皆を、ガッカリさせる事だけはあってはならない。
特に、明日は――
薬を飲んで早めに休むことに決めて、そっと目を閉じた。
*
入場開始時間になって、私も自分の当選した席に行く。真ん中より少し右寄りの席だったけど、ステージには思ったよりも近く、3人の表情はよく見えるだろうなと思った。
私のすぐ後ろの席には、TRIGGERファンには珍しい7人の男性と女の子が1人、緊張したお持ちでステージを眺めていた。
あの人達、なんだが気になるな……。そんな思いが一瞬掠めたものの、消え始める照明に慌ててペンライトを取り出す。
「ペンライトは……と」
用意をしているうちに、曲が流れ始める。
そして――大きな歓声に出迎えられる様にしてTRIGGERがステージ中央に登場した。
そこからは圧巻だった。会場の空気がTRIGGERに染められて一つになる。揃う手拍子に、踊るように紡がれる歌声。
どれもが洗練とされていて、鳥肌が立つ。そんな中で、九条さんとほんの瞬き一回分くらいの、短い時間目が合った気がした。
「っ」
気のせいかもしれない出来事に、五月蝿いくらい胸は高なって。それ以降、あまりステージを直視できなかったのは言うまでもない。
「終わっちゃった……」
一瞬にも永遠にも感じる一時を終えて、ほうっと声が漏れる。
自身を落ち着かせるように深呼吸を数度繰り返して、事前に言われた九条さんとの約束の場所――TRIGGERの控室へと足を運んだ。