第4章 上限の月-夜に沈む-
「えっと……、荷物ありがとう!すっごい助かった」
「…イエ」
別に、と月島くんもまた来た道を戻るように歩き出す。
「あっ、つ、月島くんちってどの辺?」
「……」
なんであんたにそんなこと言わなくちゃいけなんだ、と言いたげな顔で私を見下ろしたけれど、やがてぼそりと町名を呟いた。
そこは私がこれから行くお店にほど近い場所で、思わず「じゃあ途中まで一緒に行こう」と言ってしまった。
あぁ、この間のバスでも後悔したのに。
彼はきっと他人とコミュニケーションを取ることが嫌いな人なのに…
と思いつつ、言ってしまったことは仕方ないと開き直る。
私は小走りに月島くんの隣に並び、そして足を進めた。
一度耳に掛けようとしたヘッドフォンをまた首に戻したと言う事は、月島くん的に私と喋ってやってもいいけど、という合図なのだろうか。
「……東京合宿行ってたんだよね?どうだった」
「…普通デス」
「あ、普通だったか、そっか……」
後悔先に立たずだった。
やっぱり彼と会話を弾ませようなんて無理だったのかもしれない。
けれど、私は年上なんだし自分だけ気まずくなってるのもなんだか悔しいし、ここは大人の余裕ってヤツでお構いなしに話し掛け続けるべきだろう。
うぅ、でもウザいオバさんとか思われるのも嫌だし……っていうかさっき私の事おばあさんとか言ったよねこの子。
そんなことを悶々と頭の中で考えていると、隣からぼそりと声が漏れる。
「………」
「…え?ごめん、今なんて……」
「……この間は、生意気なこと言ってスミマセンでした」
私の方を見ずに、少し斜め下の地面を見ながら、月島くんはそう言った。
「あ、いっ、いいのいいの、私が余計な口出ししちゃっただけだから」
「……僕、少しだけ解った気がします」
「……?」
「……下手なのはカッコ悪いし、カッコ悪いことは…したくないんで」
そう言った月島くんの目は、もう、真っ直ぐ前を見ていた。
ああ、そうか。月島くんは何かを見つけられたのかな、と思った。
きっと、この合宿で変化があったのかもしれない。
それなら、良かった---
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