第3章 月島夢 前編
唇を離して緊張した面持ちで瞼を開く。
そこには、まっすぐとこちらを見る、整った顔立ち。
今までこんなに近くで見たことが無くて、改めて見惚れる。
そして、こんな近距離で、彼も私を見ている。
恥ずかしい。
一気に顔が赤くなるのがわかる。
『顔、赤っ』
そう呟いて、もう一度唇を塞がれた。
今度は、舌を口内へ入れて来る、濃厚なキス。
いつも落ち着いている彼の情熱的なキス。
舌使いが上手いのは慣れている訳ではなく、天性のものだろう。
表情といい、仕草といい、自然に身についたセンス。
はぁ、と吐息を小さくこぼして唇を離し、席を立った。
『コレ、貰って行くから』
と、紙袋を持って教室のドアへ歩いて行く。
なにも言えないまま、口をパクパクしていた私をチラリと見て
『御馳走様』
そう言って、ニヤリと笑った。
そしてその直後、一瞬だけ、フッといつもと違う落ち着いた表情を見せた。
殺気も無く、嫌味も不機嫌さも無い、常温の彼。
それはほんの一瞬だったけど、今まで学校では見せたことの無い、等身大の月島蛍。
前編 fin.