第1章 黒尾夢
『かな~、帰るぞ~』
クラスが違うにも関わらず、教室にいつも迎えに来る黒尾。
高身長に筋肉質の身体。
気だるそうな瞳に、ひょうひょうとした立ち振る舞い。
どことなく同年代と比べて落ち着きすぎている表情と、それでいて厨二病の様な自分に酔っているしぐさで
嫌でも人目を引く。
「クロ、下駄箱で待っててって言ったじゃん」
諦めにも似たため息交じりで、独り言のつもりで呟いたその言葉は
きっちりと彼の耳に届いたようで
『イイじゃん、隣のクラスな訳だし。わざわざ待ち合わせる必要ねぇだろ』
若干面倒臭そうな表情を浮かべながらも
私の気持ち等どこ吹く風という表情で、いつもの様にニヤニヤしながらこちらに視線を向ける。
高校3年生の1月末。受験の追い込みシーズン。
授業も午前中だけで、放課後の教室にもピリピリした空気が漂う。
私も黒尾も推薦入試で合格していたので、そんな受験戦争とは無関係なのだけど。
そんな空気を知ってか知らずか
気にも留めないという様子で、私の机までズカズカと近づいて来る。
黒尾と私は、付き合い始めて4ヶ月。
去年の10月に黒尾から告白して来た。
でもそれは、ロマンチックとはかけ離れた告白で
『高校生活最後の年だしさ、クリスマスとか一人で過ごすの、なぁんか寂しいじゃん?だからさ、俺と付き合わねぇ?』
教室で残って日誌を書いていた私。
そこにふらりとやって来て、ふざけ合って笑っていたら、突然、そう言ってきた。
正直、驚いた。
黒尾は結構モテる方だったし、女子から告白されたという噂を聞いたこともあった。
黒尾の事が好きだったけど
それが友情なのか恋愛感情なのかわからないままふざけあっていた。
そんな時にされた、告白。
嬉しかったけど
言い方からしてその告白が本気じゃないものなんだと気が付いた時、どうしようも無く物悲しくなった。
“なんとなく寂しい”
それを埋めるための相手
ただそれだけ
黒尾の告白で、私は自分の気持ちに気が付いた。
“あぁ、私、黒尾のことが好きなんだ”
本気じゃなくても、一緒にいられるならどんな形でもいいや
そう思って付き合い始めて4ヶ月
キスも手を繋ぐことも無いままの付き合いが続いている。