第9章 一押し二金三男 \❤︎/
凛は歩を緩めずスタスタと先を歩く高杉の背中を見つめた。
「お前は少し甘えるってことを覚えた方がいい。謙虚すぎるぜ」
「そんなことありません。晋助様には返しきれないほどの御恩があります!」
「……」
高杉は少し困ったような顔をすると立ち止まって優しく凛の頭を撫でた。
「テメェが我が儘を言ったことなんざ一度もねェだろ。少しくれー俺に我が儘言ってもいいんじゃねえか?」
「…我が儘、」
我が儘とは具体的にどんなことをいうのだろうか。
そう言われるとなかなか出てこない。
「そう言われると反対に出てきません…」
「これが欲しいとか、あれがしたいとかねえのかよ」
しばらく考え込むと、途端に一つの゛我が儘 ゛が頭に浮かんだ。
「じゃあ一つだけ…わたしのワガママきいてくれますか?」
「なんだ」
「このまま少しだけ…晋助様と一緒にいろんなところに行ってみたいです」
「…このままか?」
「はい。危険なのは分かっています。でもせっかくこんなに綺麗な着物にお化粧をしていただいたのにそのまま艦に戻るのはもったいなくて……それにっ、」
「……」
「……晋助様とこんなふうに外に出るのは初めてなので…だから、………だめですか?」
自分の顔を少しずつ伺いながら、そして恥ずかしいのか顔を赤らめながら言う凛にさすがの高杉もNOとは言えずに返事代わりにまた凛の頭をぽんと撫でた。
「行きてえとこ連れてってやらァ。来いよ」
差し出された手を握ると、同じ歩幅でゆっくりと歩いてくれる。
歩くスピード以上に鼓動が早くなって、でもなぜか今はそれがとてと心地よかった。