第9章 一押し二金三男 \❤︎/
こんなに高価な着物を着るのも、こんなに刺繍が施された帯を巻くのも、こんなに綺麗に化粧をするのも初めて。
本当に何もかもが初めてで、自分がこんな格好をしているということも、そんな姿を高杉に見られているのも恥ずかしい。
やはりこんなに高価なものなんて自分には不釣り合いだし着こなすなんて無理だろう。
ふとそう思えてきて、すぐさまこの場から逃げ出してしまいたい衝動に駆られた。
高杉はというと、綺麗に着飾った凛をしばらくじっと見つめてから窓枠に肘を置いて頬杖をつくとフッと笑った。
「オイ凛、ツラ上げろ」
高杉にそう言われ、凛は恐る恐る顔を上げる。
すると楽しそうに笑う高杉の顔が目に入った。
「…晋助様、」
「綺麗だ」
真っ直ぐに目を見られながらそう言われ、顔が熱くなるのを感じる。恥ずかしいのに、目を逸らしてしまいたいのに高杉の瞳に吸い込まれてしまったかのように目が離せない。
すると高杉は立ち上がって、頬を朱に染めた凛の顔をまじまじと見つめた。
「晋助様…わたしっ…」
高杉のその一言が嬉しくて、ドクン、と心臓がうるさく響いて鳴り止まない。
この音が高杉にも聞こえてしまうのではないかと思うとさらに胸が苦しくなって、凛は息を止めて胸に手を当てた。
「やっぱりテメェには赤が良く似合う」
「ほんとですか…?」
「あァ。俺の目に狂いはねェ」
「………っ」
二人のやり取りを微笑を浮かべながら後ろで見ていた雅は、凛の金色の帯に手を伸ばした。
「本当に上質な着物に上質な帯。特に帯なんて一目で価値がわかるものでありんす」