第9章 一押し二金三男 \❤︎/
「わたしは高杉さんのこと好きではないし、今でもわたしには国光さんだけよ。高杉さんもきっと凛さん以外興味無いと思うわ。だから安心してちょうだい」
「は、はいっ」
「お客様としては好きだけどね!さ、今度は綺麗にお化粧してあげるわ」
雅は鏡台の前に座らせると、木の引き出しを開けた。
そこにはたくさんの化粧道具が入っていた。
「あなた、とっても可愛い顔してるんだから」
「…い、いえっ!」
「ふふっ」
これだけの美貌なら、国光が亡くなった後も嫁の貰い手など山ほどいるだろう。
だが雅は今でも国光を尊敬し、ただ国光だけを想い続けている。
凛は国光と高杉の存在を重ねた。
雅に言われるがままに身を任せる。
化粧なんて普段あまりしないから緊張してしまって、あまり目の前の自分を見られなかった。
雅は最後に凛の唇に赤い紅を引くと言った。
「さあ、出来たわよ」
雅に言われて目を開ける。
すると、そこには今まで見たことがない自分が映っていた。
「言ったでしょう?とっても綺麗よ」
「…わたしじゃないみたいです」
「着物に負けないように少し濃くしてみたんだけど、あまりする必要なかったかしら。でもこれで高杉さんも納得すると思うわよ」
鏡に映っていた自分は、今まで出会ったことのない人のようだった。まるで別人のよう。
まさか、化粧一つでここまで変わるとは。
「まぁ、化粧なんてしなくても綺麗な顔してるんだからもっと自信を持った方がいいわよ。凛さん!」
「そんなっ……でも、ありがとうございます」
雅の目に映った凛の顔はとても幸せそうだった。
それを見ていると昔の自分を思い出す。
本当に幸せだった、あの頃を。