第9章 一押し二金三男 \❤︎/
「あの頃は何もかもが幸せだった。二人で商いをして、色んなところに連れて行ってもらった。吉原から出たことがないわたしは外の世界なんて全く知らなかったから国光さんと一緒に見た全てが新鮮だったの。国光さんはわたしに知識や思い出、たくさんのものをくれたわ。だからあの人がいなくなった世界でもこうして満ち足りた気分で生活していられる。俺がいなくなっても雅がこの世界で幸せに暮らせるようにって言ってくれたからね。」
最後に帯締めを結ぶと、素晴らしい着物姿が出来上がっていた。
置いてあった全身鏡で立ち姿を見ていると、着物に負けず劣らず豪華な帯、そして差し色の帯揚げや帯締め。
全てが素晴らしかった。
「…だから廓言葉だったのですね」
「つい昔の癖でね。だからあなたが高杉さんと仲睦まじくしている姿を見ると少しだけ羨ましいって思ってしまうの。……もう一度国光さんに会いたいわ」
物思いにふけったように、憂う雅の表情を見ていると思う。
わたしはあの人がいなくなったら雅さんのように強く生きていけるだろうか。
あの人がいなくなった世界なんて、生きる意味すらないかもしれない。
「…今になってもっと国光さんにしてあげられたことがあったんじゃないかと考える。わたしにとって国光さんは最愛の人だったから……」
「……最愛の人……」
「そう。あなたにとっての最愛の人は高杉さんでしょう?だから後悔のないようにたくさんたくさん愛してあげてね。…高杉さんだって一人の人間なんだから」
その言葉が重く凛にのしかかった。
わたしは、ちゃんと晋助様を愛せているでしょうか?
晋助様は、わたしを必要としてくれているでしょうか?
その答は、本人にしか分からない。