第9章 一押し二金三男 \❤︎/
聞いたことがある。
吉原で遊女が客と結ばれる為には、多額の金を出して遊女を買うか……心中するしかないと。
「もう二度とあんな人には出会えないと思った。あの人のいない世界なんてわたしには無意味でね、もう会えないのならわたしは死のうとさえ考えた。
…なのにあの人はこんなわたしを買ってくれたの。わたしの過去を知ってもなお気にせずにわたしを愛してくれた。
………それがわたしの旦那、江戸の大商人・吉野国光だった」
吉野国光。
聞いたことがある。
江戸で三本の指に入るほどの大商人だ。
「あの人はたくさんわたしを愛してくれたわ。わたしも彼を愛していた。あの人はわたしの全てだったの。」
゛あの人はわたしの全てだったの。゛
雅の気持ちはとてもよく分かる。
雅と同じように、今のわたしにはあの人しかいない。
「もうけっこう昔に病で亡くなってしまったのだけれどね。国光さんのおかげでわたしは吉原という牢屋から出て外の世界へ足を踏み出せた。わたしがこうしてお腹いっぱいにご飯を食べられるのも、綺麗に着飾っていられるのも全て国光さんのおかげなの。だからわたしは少しでも国光さんへ恩返しがしたくて吉野家を継いだ」
「…そうだったのですね」
「国光さんと高杉さんは旧友の仲らしくてね。商人とお客様の関係でもあったけれど、高杉さんが鬼兵隊を再結成した後も密かにまだ繋がりがあったみたい。わたしもその頃初めて高杉さんを知ったのよ。あ、高杉さんが攘夷志士だってことは知ってるからね」
ということは、国光も雅も高杉が過激派と言われる攘夷志士だということは知っていたということだろうか。
だとしたらなぜ……