第9章 一押し二金三男 \❤︎/
口は動かしながらも手は止めない。
雅はこれまた豪華な金の帯を凛にあてると、そのまま太鼓結びにした。
「その人はね、頑固で破天荒だったけれどとても気のいい人だった。だからその人に指名されて会う度、わたしはその人に惹かれていった……けれど遊女が客に恋をするなんて許されないことよ。」
「……それで雅さんは、どうしたんですか?」
「…何回か指名されて、その人はわたしの馴染み客になった。馴染みになった次の日の夜、その人は珍しく一人で吉原に訪れてね、わたし一人を指名してくれた。………そしてそのまま初めて床入りしたのよ。……あの人は優しくわたしを抱いてくれた」
「………」
「あの人の財力だったらわたしなんかじゃなくて太夫や花魁さまにも手を伸ばせたはず。なのになぜわたしなんかと床入りしたのか気になって、行為が終わってから二人並んでその人に理由を尋ねてみたの。
そしたらね、その人、もう次の日から吉原に来ることはなくなるんだって言ってたわ。もうここには来ることはないだろうって。
だからね、わたしも最後を覚悟の上でその人に想いを打ち明けたの。こんなに人を好きになるのは初めてだったから。今想いを打ち明けなければもう死ぬまでこの気持ちを伝えることはないだろうって思ったのね。」
雅はゆっくりと帯揚げと帯締めを締めると、さらに続けた。
「…そしたらね、その人……どうしたと思う?」
「……また次の日も吉原に来てくれたんですか?」
「違う。」
雅は今までにないくらい幸せそうな顔をして言った。
「…その人、わたしごと全部買ってくれたのよ。」
「…え?」
「吉原からわたしを買ってくれたの。実は俺もお前を愛していたって言ってね」