第9章 一押し二金三男 \❤︎/
「ほんとに意地悪な人ね」
「……へ?」
「何でもないわ。さ、やるわよ」
凛もそれ以上は追求せずにぽかんとした顔で頷いた。
雅は豪華絢爛な朱色の着物を凛にあてると、テキパキと手際よく着付けていった。
正直、こんな見事な着物を着たことがなくとても緊張してしまう。
わたしがこんなものを着ていいのだろうか。
着ても、似合わなかったらどうしよう。
そんなことばかりが頭に浮かんでしまう。
「……甚介。」
そんなことばかり考えていたら、ぽつりと雅が一つ呟いた。
「……甚介?」
「そう。ヤキモチって意味でありんす。わたしにヤキモチ焼いてたのよね?」
雅は上品に右手を口元に当てて笑って見せた。
改めて見ると、表情、所作の一つ一つが艶めかしく美しい。
「すみませんっ…わたし、勝手に勘違いして一人で落ち込んで……晋助様にも雅さんにもたくさん迷惑かけて…」
「いいのよ。とっても可愛いじゃない。まさかあの鬼兵隊総督ともあろう人が一人の女相手にお手上げ状態とはね。」
雅の言葉を聞いて、少し顔が熱くなった。
だが一つ気になることがある。
「…雅さんは、晋助様とどういったご関係なんですか?……雅さんは一体……」
雅はグッときつく凛の下帯を締めてから言った。
「……少し昔話をしていいかしら」
「……はい」
雅はふーっと長く息をついた。
「…わたしね、幼い頃からずっと吉原にいたの。
五つの時に親に身売りされて吉原で働くようになって、外の世界なんて全く知らなかった。外に出たいと夢見ながらも籠の中で生き続けるしかない哀れな鳥のような人生だった」
「……」
「死ぬまでずっとこの生活が続くんだって思って世界に絶望しながら生きてたの。あの人に救われるまではね。」
「……あの人?」
「…あの人が最初にわたしのところに来たのはわたしが18の時だった。あの人はここら辺では有名な商人でね、たっぷり稼いだお金を使っては仲間を連れて吉原で豪遊してたのよ。その時ちょうど運良くわたしもその人に指名してもらったの。少しでも気に入られてお金を稼ごうと必死だった」